牙蔵はその日のうちに沖田の城下に来ていた

牙蔵はその日のうちに沖田の城下に来ていた

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牙蔵はその日のうちに沖田の城下に来ていた。

沖田は、山も川も海もある。

豊かな土地。平野は田畑が広がる田舎だが、城下町は発展して、活気が良い。

牙蔵は旅人に扮して城下町を歩く。

辻のところから、1人の男がついてくる。

「…」

牙蔵はそのまま通り過ぎ、城下町の外れの茶屋につくと、腰かけた。

「いらっしゃい!」

茶屋の主人が愛想よく声を掛けてくる。

「あら~お侍さん、いい男ですね」

茶屋のおかみさんが頬を染めた。

「あんた、こんないい男、沖田で見たことないよ」

「おいっ、お前失礼だろう」

「…小原の妹のところまで行く途中なんです。

茶とまんじゅうを頼めますか」

「毎度!」

「小原まで…ですか…

もう一山超えですね。

なんなら泊まれる宿をご案内しましょうか」

「…いや、大丈夫です、ありがとう」

牙蔵は張り付けたようなきれいな微笑みを浮かべた。

スッと、牙蔵と背中合わせで斜向かいに大柄な男が座った。

「いらっしゃい!岩熊さん、いつものでいいかい」

「はい、お願いします」

高島の誇る『黒装束集団』は、各国に密かに潜んでいる。

この『岩熊』もその1人ーー表向きは沖田の家臣の1人だ。

「…」

「…」

無言で茶をすする2人の男。

店の主人とおかみさんが賑やかに話しながら中に入り、客足が途絶えた瞬間。

『岩熊』が湯呑を静かに置き、立ち上がる。

「九つ…西…」

それだけ呟くと、スタスタと去っていく。

「…」

岩熊の湯呑の下に、1枚の紙。

牙蔵も茶を静かに啜ると、席を立った。子の正刻。午前0時の少し前。

沖田の西門に、牙蔵の姿があった。

かがり火ーー門の前に衛兵が2人。

「…」

近くの木の上から、その様子を見る。

ザッザッ…玉砂利を鳴らして、2人が来る。

「交代だ」

何やら申し送りを始めた。

「…」

護衛を尻目に、牙蔵は音もなく城に飛び移り、忍び込む。

塀から屋根、屋根から屋根裏へーー

気配を殺して、進む。

龍虎の部屋の周囲には手練れの気配があって、やはり迂闊には近づけない。

総兵力は、沖田に信用を得ている岩熊が既に把握している。

その前にーー。

気の乗らない仕事だった。

天井から、月明かりの差し込む部屋を覗く。

「あれが…『美和』…」

岩熊に渡された暗号の図面通り、その部屋には女がいた。

美和は、沖田龍虎が特別に囲っている『寵姫』だと言う。

確かに、キレイな女子だった。

襖の外の部屋では、侍女が寝ている。

夜中なのに、龍虎は軍議中だ。

美和は1人、褥に入ってスヤスヤ眠っていた。

ーー…はあ…面倒。

殺す任務のがよっぽど楽…

脳裏に何度も詩の姿が浮かんできて、牙蔵は苦笑した。

ーーらしくない。

何度もしてきた。

篭絡も仕事だ。

こんな感情はーー迷いは、俺にはいらない。既に捨てた。

牙蔵の冷たい瞳が、美和を捕らえる。

音もなく、牙蔵は畳の上に降り立った。

「…」

「…っ?」

冷たい手で、美和の口をそっと塞ぐ。

「しっ…静かに」

微笑んで目で殺せば、差し込む月明りの下、美和は牙蔵の妖艶な美しさに瞬時に目を奪われた。

「…あなたは…どなた…?」

牙蔵は、美和に素早く口づける。

愛おしそうに頬に、頭に手を滑らせる。

舌を絡めて口内をくすぐってやれば、すぐに力は抜け、吐息が漏れる。

あらゆる技巧を身に着けた牙蔵の前に、抵抗できる女子は誰もいない。

「…美和を抱きに来た」

「…ぁ」

最後の弱い抵抗もすぐに緩んで、とろんと潤んだ瞳。夢見心地の美和の襦袢に牙蔵は躊躇いなく素早く手をかける。

隅から隅まで、どこまでも優しく、どこまでも女子を気持ちよくさせ、時間をかけ、ゆっくりと昂らせ、甘やかす。

大事だと伝えるように。愛していると伝えるように。

こんな風に抱かれたことのない女子ほど、早く堕ちる。

女子が欲を我慢できなくなるのを、待つ。

やがて、息の上がった姫の方からはしたなく牙蔵の腹に手が伸びた。

『もう、欲しい』と震えるその唇が言っている。

微笑んで、焦らすように触れる。姫の腰が、今すぐ飲み込みたいと動く。

高貴な女子でもこれだ。

全く人間らしいことだ。

洩れそうな声を唇で塞ぐと、姫の喘ぎも悲鳴も牙蔵の口の中に飲み込まれた。

ゆっくり、ゆっくり動くと、姫がふるふる震えて腰をよじり、首を振って背を反らす。

「…っ…っ…~~~」

声を我慢して自分で口を塞いでいる。

ゆっくり、ゆっくり繋がる。

下腹からビクビクっと激しく痙攣して、逝った。

おさまるまで少し、そのまま待つ。

姫はそんな自分に驚いて、何度も腰を震わせながら、涙を流して牙蔵を見上げる。

「…っ」

すがるような目に、牙蔵はフッと微笑んだ。

ここまで気持ちよいのは、初めて、なんだろう。

大抵の女子がそうだ。

抱き方ひとつで、誰でも逝けるのにーー

耳元で囁く。

「もう逝っちゃった?美和、可愛いな」

カアッと美和は肌全体を赤く染めて、牙蔵にしがみついた。

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